大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和30年(行)14号 判決 1963年1月26日

原告 田中豊治郎 外二名

被告 上京税務署長・下京税務署長

訴訟代理人 家弓吉己 外七名

主文

原告等の主たる請求並びに予備的請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、

一、「被告上京税務署長が原告田中豊治郎に対し、昭和二七年度の所得として、昭和二八年七月二九日株式資産再評価額等と題する更正通知及びこれに対する昭和三〇年四月四日附審査決定によつてなした課税処分の総所得額中、譲渡所得額六、一三〇、〇〇〇円とあるうち三、七〇〇、〇〇〇円を越える部分はこれを取消す。

二、被告上京税務署長が原告田中たきに対し、昭和二七年度の所得として、昭和二八年七月二九日株式資産再評価額等と題する更正通知及び之に対する昭和三〇年四月四日附審査決定によつてなした課税処分の総所得額中、譲渡所得額五、二〇五、〇〇〇円とあるうち、二、七七五、〇〇〇円を越える部分はこれを取消す。

三、被告下京税務署長が原告田中忠兵衛に対し、昭和二七年度の所得として、昭和二八年六月三〇日、株式資産再評価額等と題する更正通知及び之に対する昭和三〇年四月四日附審査決定によつてなした課税処分の総所得額中、譲渡所得額六、七五三、七五〇円とあるうち、三、六三五、二五〇円を越える部分はこれを取消す。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、

予備的に、

一、「被告上京税務署長が原告田中豊治郎に対し、昭和二七年度の所得として、昭和二九年九月一七日告知した所得税更正決定に基き課税処分した総所得額中、譲渡所得額六、一三〇、〇〇〇円とあるうち、三、七〇〇、〇〇〇円を越える部分はこれを取消す。

二、被告上京税務署長が原告田中たきに対し、昭和二七年度の所得として、昭和二九年九月一七日告知した所得税更正決定に基き課税した総所得額中、譲渡所得額五、二〇五、〇〇〇円とあるうち、二、七七五、〇〇〇円を越える部分はこれを取消す。

三、被告下京税務署長が原告田中忠兵衛に対し、昭和二七年度の所得として、昭和三〇年六月六日告知した所得税更正決定に基き課税した総所得額中、譲渡所得額六、七五三、七五〇円とあるうち、三、六三五、二五〇円を越える部分はこれを取消す。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として

一、被告上京税務署長は、原告田中豊治郎に対し、昭和二八年七月二九日付再評価額等の更正通知書を以つて、同原告の昭和二七年の譲渡所得額を六、一三〇、〇〇〇円と決定し、次いで昭和二九年九月一七日送達の昭和二七年度所得税更正決定を以つて、同年度総所得額を七、五九八、一五六円、うち譲渡所得を六、一三〇、〇〇〇円と決定し、原告田中たきに対し、昭和二八年七月二九日付資産再評価額等の更正通知書を以つて、同原告の昭和二七年度の譲渡所得額を五、二〇五、〇〇〇円と決定し、次いで昭和二九年九月一七日送達の昭和二七年度所得税更正決定を以つて、同年度総所得額を五、一二五、四四八円、うち譲渡所得を五、二〇五、〇〇〇円(この計算関係の表見上の矛盾は次の理由に基く。すなわち右総所得額は右譲渡所得額に配当所得二〇、四四八円を合算したものから所得税法第九条所定の一〇〇、〇〇〇円を控除して得られるものだからである)と決定し、被告下京税務署長は原告田中忠兵衛に対し、昭和二八年六月三〇日付資産再評価額等の更正通知書を以つて、同原告の昭和二七年度の譲渡所得額を六、七五三、七五〇円と決定し、次いで昭和三〇年六月六日送達の昭和二七年度所得税更正決定を以つて、同年度総所得額を七、一四三、三〇〇円、うち譲渡所得を六、七五三、七五〇円と決定した。

二、しかしながら、被告等のなした原告等の譲渡所得額に関する決定には次の違法がある。すなわち、

(一)(イ)  原告田中豊治郎は(1)昭和二一年三月三日(昭和二一年法律第五二号財産税法第一条に規定する調査時期、以下財産税調査時期という)において、訴外京都晒染工業株式会社株式一、二五〇株を有していたが、これに対し、昭和二六年一二月二五日同会社の再評価積立金を資本へ組入れるため増資し株主に対し右増資株を旧株につき、三株の割合で無償交付したので三、七五〇株の無償交付をうけたほか、(2)昭和二二年一一月一一日訴外田中忠合資会社の清算により同会社の所有していた前同株式五、〇二二株の現物分配を受け、これに対し、前記再評価積立金額の資本組入による増資に当り前同様一五、〇六六株の無償交付を受け以上(1)と(2)の合計二五、〇八八株を所有していたところ、昭和二七年二月一日訴外田中晃市に対し(1)の株式全部と(2)のうち一五、〇〇〇株併せて二〇、〇〇〇株を贈与した。

よつて原告豊治郎は被告上京税務署長に対し再評価額四、三〇〇、〇〇〇円、再評価差額二、二七〇、〇〇〇円、再評価税額一三六、二〇〇円、譲渡所得額三、六〇〇、〇〇〇円として再評価の申告をしたところ、昭和二八年八月二日同被告は再評価額一、八七〇、〇〇〇円、再評価差額一、一九〇、〇〇〇円、再評価税額七一、四〇〇円、譲渡所得額六、一三〇、〇〇〇円とする同年七月二九日付更正決定通知書を原告豊治郎に送達し、さらに同原告の昭和二七年度の所得税に関し右譲渡所得額を基礎として前記更正決定をなしたものである。

(ロ)  原告たきは、昭和二二年一一月一一日訴外田中忠合資会社の清算により訴外京都晒染工業株式会社株式四、三二六株の現物分配を受けたが、前記再評価積立金の資本への組入による増資により一二、九七八株の無償交付を受け、以上合計一七、三〇四株を所有していたところ、昭和二七年二月一日訴外田中辰雄に対し、うち一〇、〇〇〇株を、訴外田中満子に対し、うち五、〇〇〇株をそれぞれ贈与した。よつて、原告たきは被告上京税務署長に対し、再評価額三、二二五、〇〇〇円、再評価差額一、三四〇、〇〇〇円、再評価税額八〇、四〇〇円、譲渡所得額二、六七五、〇〇〇円として再評価の申告をしたところ、昭和二八年八月二日、同被告は再評価額七九五、〇〇〇円、再評価差額二六〇、〇〇〇円、再評価税額一五、六〇〇円、譲渡所得額五、二〇五、〇〇〇円とする同年七月二九日付更正決定通知書を原告たきに送達し、さらに同原告の昭和二七年度所得税に関し、右譲渡所得額を基礎として前記更正決定をなしたものである。

(ハ)  原告忠兵衛は(1)財産税調査時期において訴外京都晒染工業株式会社株式一〇〇株を有していたが、これに対し前記再評価積立金の資本への組入による増資により三〇〇株の無償交付をうけたほか、(2)昭和二二年一一月一一日訴外田中忠合資会社の清算により前同株式四、九四三株の現物分配を受け、これに対し、前記再評価積立金の資本への組入による増資により一四、八二九株の無償交付を受け、以上(1)と(2)の合計二〇、一七二株を所有していたところ、昭和二七年二月一日訴外田中正豊外二八名に対し(1)の株式全部と(2)のうち一九、二五〇株併せて一九、六五〇株を贈与した。

よつて原告忠兵衛は被告下京税務署長に対し、再評価額四、二四四、七五〇円、再評価差額一、八二二、四〇〇円、再評価税額一〇九、三四〇円、譲渡所得額三、五三五、二〇〇円として再評価の申告をしたところ、昭和二八年六月三〇日同被告は再評価額一、一〇六、二五〇円、再評価差額四三六、四〇〇円、再評価税額二六、一八〇円、譲渡所得額六、七五三、七五〇円とする更正決定通知書を原告忠兵衛に送達し、さらに同原告の昭和二七年度所得税に関し右譲渡所得額を基礎として前記更正決定をなしたものである。

(二)  しかしながら、原告等の右申告にかかる各譲渡所得額等の計算は以下のとおり資産再評価法に従い、同法所定の倍数により計算した再評価額に基いて算出したものであつて、何ら誤謬違法がない。すなわち、

1  原告豊治郎、同忠兵衛が財産税調査時期以前に取得した株式及びこれに対する無償交付株(以下これらの株式を甲株式という)については、財産税調査時期における財産税評価額(財産税法第三〇条第三項)一株当り一一六円に七・四を乗じ(資産再評価法第二三条第一号、第二二条第一項第一号、以下同法については単に法第何条という)、これを四で除し(前記旧株一株に対し新株三株の割合による無償交付があつたので法第二三条第一号第四号、第四三条第一項第五号、資産再評価法施行令第六条第二項第七号により改算される)、一株当り再評価額二一五円{(116円×7.4)÷4=214.6円}を算出した。

しかして甲株式一株当りの再評価差額は、右再評価額二一五円より右取得価額(財産税評価額)一一六円を四で除して(前同事由による改算)求められる取得原価を、差引いた一八六円{215円-(116円÷4)=186円}である。

2  つぎに原告等が昭和二二年一一月一一日に訴外田中忠合資会社の解散により分配を受けた株式及びこれに対する無償交付株(以下これらの株式を乙株式という)についてみるに、その取得価額は右訴外会社においては財産分配につき評価をなさず、且つ分配方法も出資額に比例させなかつたため不明である。しかしながら、右時期における株価は財産税調査時期から二〇ケ月間のインフレーシヨンにより当然著しい暴騰をしていたものと思料され、且つ右取得時期の前後にかけ繊維製造並びに染色関係機械類を戦時中供出した業者が軍需生産より平和産業への切換の意欲に燃え引張凧の状況にあり、右株価も実際は法第三条所定の基準日昭和二五年一月一日における法所定の価額より遙かに上廻つていたものであるから、これを財産税調査時期における価額一株一一六円とみなすのは不合理である。

そこで乙株式の取得価額は法第二二条第一項第二号による同法別表第四所定の倍数すなわち物価の高騰にスライドして定められた再評価倍数によつて逆算するのが最も合理的であるから、右財産税評価額一株一一六円に前記倍数七・四を乗じ八五八円四〇銭(法所定の再評価額)が得られるので、乙株式の一株当り取得価額(右訴外合資会社解散により分配を受けた昭和二二年一一月一一日当時の再評価額(x円)は、右別表第四による取得の時期を昭和二二年一〇月から一二月までとする再評価倍数一・八から四七七円{858.4円=x円×1.8 x円=476.7円=477円(四捨五入)}を算出し、これが原告等が取得した当時の株価とみるべきである。それで右取得価額四七七円から、甲株式再評価額算出と同様の方法により乙株式の一株当り再評価額二一五円{(477円×1.8)÷4=214.6円=215円(円位未満切上)}を算出した。

したがつて、乙株式一株当りの再評価差額は、右再評価額二一五円より右取得価額四七七円を四で除して(前同事由による改算)求められる取得原価を、差引いた九六円{215円-(477円÷4)=96円}である。

3  よつて原告豊治郎についてみるに、

イ、再評価額は、甲株式及び乙株式各一株当り再評価額二一五円に贈与株数二〇、〇〇〇を乗じた四、三〇〇、〇〇〇円である。(再評価差額は、甲株式一株当り再評価差額一八六円に甲株式贈与株数五、〇〇〇円を乗じて求められる九三〇、〇〇〇円と乙株式一株当り再評価差額九六円に乙株式贈与株数一五、〇〇〇円を乗じて求められる一、四四〇、〇〇〇円との合計二、三七〇、〇〇〇円から、法第三七条第二項による一〇〇、〇〇〇円を控除した二、二七〇、〇〇〇円である。再評価税額は、右再評価差額二、二七〇、〇〇〇円に再評価税率一〇〇分の六を乗じた一三六、二〇〇円である。)

ロ、譲渡所得額は、一株当りの贈与価額四〇〇円より再評価額二一五円を差引いた一八五円に、贈与株数二〇、〇〇〇を乗じて求められる三、七〇〇、〇〇〇円から、所得税法第九条による一〇〇、〇〇〇円を控除した三、六〇〇、〇〇〇円である。

4  原告たきについてみるに、

イ、再評価額は乙株式一株当り再評価額二一五円に贈与株数一五、〇〇〇を乗じた三、二二五、〇〇〇円である。(再評価差額は、乙株式一株当り再評価差額九六円に贈与株数一五、〇〇〇を乗じて求められる一、四四〇、〇〇〇円から前同様一〇〇、〇〇〇円を控除した一、三四〇、〇〇〇円である。再評価税額は、右再評価差額一、三四〇、〇〇〇円に前同税率を乗じた八〇、四〇〇円である。)

ロ、譲渡所得額は、一株当りの贈与価額四〇〇円より再評価額二一五円を差引いた一八五円に贈与株数一五、〇〇〇を乗じて求められる二、七七五、〇〇〇円から、前同様一〇〇、〇〇〇円を控除した二、六七五、〇〇〇円である。

5  原告忠兵衛についてみるに、

イ、再評価額は、甲株式及び乙株式各一株当り再評価額二一五円に贈与株数一九、六五〇を乗じた四、二二四、七五〇円である。(再評価差額は、甲株式一株当り再評価差額一八六円に甲株式贈与株数四〇〇を乗じて求められる七四、四〇〇円と乙株式一株当り再評価差額九六円に乙株式贈与株数一九、二五〇を乗じて求められる一、八四八、〇〇〇円との合計一、九二二、四〇〇円から、前同様一〇〇、〇〇〇円を控除した一、八二二、四〇〇円である。再評価税額は右再評価差額一、八二二、四〇〇円に前同税率を乗じた一〇九、三四〇円である。)

ロ、譲渡所得額は、一株当りの贈与価額四〇〇円より再評価額二一五円を差引いた一八五円に、贈与株数一九、六五〇を乗じて求められる三、六三五、二五〇円から、前同様一〇〇、〇〇〇円を控除した三、五三五、二五〇円である。

従つて、被告等のなした前記決定は算定を誤つている。そこで前記各資産再評価額等の更正通知書による更正決定に対し、原告豊治郎及び同たきはいずれも昭和二八年八月六日、原告忠兵衛は同年七月一七日それぞれ大阪国税局長に審査の請求をし、これらについては、昭和三〇年四月四日付で棄却の決定があり同月一七日頃原告等に通知された。惟うに原告等三名の昭和二七年度の譲渡所得は、本件株式については一あつて二なきものである。

従つて、被告上京税務署長が原告豊治郎、同たきに対して、被告下京税務署長が原告忠兵衛に対して、それぞれ資産再評価法第六九条の規定による再評価額等の更正通知書(甲第一号証の一、同第二号証の一、同第三号証の一)による告知をなした当時、既に国家機関としての被告等が夫々同日付で原告等に対する同人等の昭和二七年度の所得に関する更正決定を以つて課税処分をしたものである。それ故右処分の中請求趣旨記載の部分は過大な決定であるから、その部分の取消を求めるものである。

三、仮りに右告知を以つては、未だ原告等に対する課税処分である所得税更正決定がなされたものでないとしても前記のように原告豊治郎、同たきに対しては、昭和二九年九月一七日、同忠兵衛に対しては昭和三〇年六月六日、それぞれ、右原告等の昭和二七年度の所得税更正決定があつたから、予備的に右各更正決定のうち、前同様の部分の取消を求めるものである。

ところで、

(イ)  右所得税更正決定に対し、原告豊治郎及び同たきは昭和二九年一〇月四日被告上京税務署長に再調査の請求をなしたところ、同被告は、昭和二九年一二月二二日右請求を棄却したが、右原告等はこれに対し審査の請求をしなかつた。また原告忠兵衛は昭和三〇年六月一四日被告下京税務署長に再調査の請求をなしたところ、右再調査請求は所謂みなす審査に移行し、訴外大阪国税局長は昭和三一年三月二九日同原告に対し、その棄却決定の通知をなした。

(ロ)  原告豊治郎及び同たきは右のとおり再調査請求の棄却決定に対し、さらに、審査の請求をしなかつたから、予備的請求は恰も訴願前置の要件を欠くかに見え、また原告等が明確に予備的請求の趣旨と同じ趣意の判決を求めるに至つたのは、昭和三二年九月一七日付書面(同年一二月一七日の準備手続期日において陳述)においてであるから、原告等の本件予備的請求の出訴は法定の三ケ月を経過した後であるかに見える。

(ハ)  しかしながら、原告等はそれよりさき、昭和三〇年七月一日訴状を以つて、被告等に対し「(一)被告上京税務署長が原告豊治郎に対し、昭和二八年七月二九日付を以てなした更正決定中(1)再評価合計額金一、八七〇、〇〇〇円を金四、三〇〇、〇〇〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金一、一九〇、〇〇〇円を金二、二七〇、〇〇〇円に変更する(3)再評価税額金七一、四〇〇円を金一三六、二〇〇円に変更する(4)譲渡所得金額金六、一三〇、〇〇〇円を金三、六〇〇、〇〇〇円に変更する。(二)被告上京税務署長が原告たきに対して昭和二八年七日二九日付をもつてなした更正決定中(1)再評価合計額金七九五、〇〇〇円を金三、二二五、〇〇〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金二六〇、〇〇〇円を金一、三四〇、〇〇〇円に変更する(3)再評価税額の合計額金一五、六〇〇円を金八〇、四〇〇円に変更する(4)譲渡所得金額金五、二〇五、〇〇〇円を金二、七七五、〇〇〇円に変更する。(三)被告下京税務署長が昭和二八年六月三〇日付をもつて原告忠兵衛になした更正決定中(1)再評価額合計額金一、〇〇六、二五〇円を金四、二二四、七五〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金四三六、四〇〇円を金一、八二二、四〇〇円に変更する(3)再評価税額の合計額金二六、一八〇円を金一〇九、三四〇円に変更する(4)譲渡所得金額金六、七五三、七五〇円を金三、五三五、二五〇円に変更する」等の請求の趣旨を掲げて本訴の提起をなしている。

(ニ)  右訴状の請求の趣旨中(一)ないし(三)の各(1)ないし(3)は資産再評価法に基づく更正決定の変更を求めるものであり同(一)ないし(三)の各(4)は、まさしく右を基礎としてなされた本件各所得税に関する更正決定中譲渡所得の部分の取消を求める趣旨であつて、その後、右のとおり請求の趣旨をあらためたのは単に当初の請求の趣旨(一)ないし(三)の各(4)の内容を明確ならしめただけであり、これによつて訴の変更がなされたものではない。

(ホ)  そして右資産再評価額等の更正決定に対して原告豊治郎及び同たきは、前記のように大阪国税局長に対し審査の請求をして棄却され、その後三ケ月以内に前記の請求の趣旨を掲げて本訴を提起したのである。

(ヘ)  ところが、訴状記載の請求の趣旨(一)ないし(三)の各(1)ないし(3)に掲げる各金額はいずれも法第二条第一項に所謂「所得税法に規定する譲渡所得の計算の基礎となる価額」であり、法自体がかかる意義を特定している以上、基礎となる価額の決定に対する行政及び司法救済手続の履践は当然その基礎の上に立つて決定されるべき所得税法上の譲渡所得額の決定に対する右の各救済手続を履践したものとされねばならない。このことは次の諸点からも明らかである。すなわち、法は法定再評価と「みなす再評価」の場合を除き一般的に資産の再評価をなすと否とを自由ならしめているのに、本件と関係のある右「みなす再評価」についていえば株式等の資産につき譲渡等が行われた場合必然的に再評価がなされたものとみなされるのであつて、そして、その場合にはじめて、しかも当然に譲渡所得の問題が生起して来ることとなり、その譲渡所得額の算定は結局右「みなす再評価」により資産再評価法上決定されるのである。このように両者は不可分一体の関係に立ちさらに再評価に関する申告も譲渡所得の申告も同一期間内になすべく法定され、実務上も両者同時になされ、両申告用紙は同一のものが使用されるのである。

したがつて原告等の予備的請求は訴願前置ないし出訴期間の遵守において欠くところがないのである。

(ト)  更に仮りに原告豊治郎、同たきが出訴期間を徒過したものとしても、以上のように行政事件救済法令整備途上において疑義の存する事情は、行政事件訴訟特例法第五条第三項但書の正当な事由に該当するものというべく、これがため同条第一項の期間内に訴を提起することができなかつたものであるから、右出訴期間の徒過に拘らず、なお予備的請求の訴を提起できるというべきであるから本件予備的請求の付加は適法である。と述べた。

(証拠省略)

被告等指定代理人は、主たる請求及び予備的請求に対して、「原告等の各訴をいずれも却下する。」との判決を求め、

本案前の抗弁として、

(一) 被告等は原告等主張の資産再評価等の更正通知を以つて、課税処分としての原告等の譲渡所得額の決定をしたものではなく、その通知書に右譲渡所得額を記載したのは修正申告または将来更正せられるべき金額を便宜付記したにとどまるのであるから、この点については、取消変更の対象となる行政処分は存在しないので、原告の主たる請求は不適法である。

(二) 予備的請求については、被告等は夫々原告等主張の日時その主張の所得税更正決定をしたが、原告豊治郎及び同たきは被告上京税務署長のなした右更正決定につき、同被告に対し再調査の請求をなしただけで大阪国税局長に審査の請求をしなかつたのであるから、右原告等の本訴は訴願前置主義の要件を備えぬ不適法のものであるし、原告忠兵衛は、被告下京税務署長のなした右更正決定につき、結局大阪国税局長の審査決定をうけたが、その後三ケ月の法定期間を徒過し、前記昭和三二年一二月一七日の本件準備手続期日に至つて、はじめて、右更正決定取消を請求したのであるから、これまた不適法である。

尤も原告等は昭和三〇年七月一日付でその主張のような請求の趣旨を掲げて本訴を提起し、この請求の目的たる資産再評価法に基づく更正決定については原告等が夫々その主張のように審査請求をし、その審査を受けているから、訴願前置及び出訴期間遵守の要件を具備しているけれども、その故をもつて、別個の行政処分たる本件各所得税更正決定について右要件を具備したこととはならない。また、原告等の訴状記載の請求の趣旨中(一)ないし(三)の各(1)ないし(3)についてはいずれも決定額の増額を求めるものであり、訴の利益なきものといわねばならず、然らずとしても一般に違法な行政処分の取消が許されるのは原処分の分量的又は性質的一部の違法確定の趣旨においてのみであり、全く新たな行政処分がなされたと同様の効果を形成する趣旨の裁判を求めることはゆるされないのであるから、そもそも本訴提起自体不適法である。

以上、いずれにしても原告等の本訴は不適法として、却下を免れない。と述べ、

本案の答弁として、(主たる請求及び予備的請求に対して)「原告等の各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、

一、請求原因一の事実の中、被告等が夫々原告主張日時その主張の所得税更正決定をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

請求原因三の中、(イ)(ハ)(ホ)の各事実及び同(ロ)の事実中原告が明確に本訴予備的請求の趣旨と同じ趣意のそれを掲げるに至つたのは本訴係属中の昭和三二年九月一七日であるとなす部分はいずれも認めるが、その余の部分は争う。

請求原因二の中、

次の点を除く(一)の(イ)ないし(ハ)の各(1)、(2)記載の事実は認めるが、その余の事実は争う。即ち原告等が田中忠合資会社の残余財産の分配として、京都晒染工業株式会社の株式を取得したのは昭和二四年一月一〇日であり、原告等が提出した個人の減価償資産以外の資産等の再評価申告書の記載額は次のとおりである。

氏名

再評価額

再評価差額

再評価税額

譲渡所得

田中豊治郎

(円)

四、三〇〇、〇〇〇

(円)

三、七二〇、〇〇〇

(円)

二一七、〇〇〇

(円)

三、七〇〇、〇〇〇

田中たき

三、二二五、〇〇〇

二、七九〇、〇〇〇

一六一、〇〇〇

二、七七五、〇〇〇

田中忠兵衛

五、二六六、二〇〇

二、三三八、二五〇

一三四、二九〇

二、五九三、八〇〇

二、ところで原告等の主たる請求については、前記のように、原告等主張日時、被告等は、その主張の課税処分を行つたことがないのであるから、その取消を求める原告等の本訴請求は理由がない。

三、次に予備的請求について、被告上京税務署長が原告田中豊治郎、同田中たきに対して昭和二九年九月一六日になした昭和二七年度分各所得税更正決定及び被告下京税務署長が原告田中忠兵衛に対して昭和三〇年六月三日になした昭和二七年度分所得税更正決定はいずれも適法である。その理由を次に説明する。

(一)  昭和二七年度分所得税の算出方法

昭和二七年分の所得税については同年中の総所得金額のうち、譲渡所得、一時所得のいわゆる変動所得が総所得金額の二割以上を占める場合には、納税義務者の選択によつて平均課税の方法を選ぶことができる。(所得税法第一四条、第二六条)この平均課税の選択がなされた場合の課税は、同年中の総所得金額から、扶養控除基礎控除等を控除しないで、これ等の控除をまず、変動所得以外の所得(普通所得という)金額についてなし、なお不足額があるときはこれを変動所得の金額から控除し、その残額の普通所得に変動所得金額五分の一を加えた額(調整所得金額という)と変動所得金額の五分の四に相当する額(特別所得金額という)とをその基礎としてなされる(同法第一四条第一項)。

この場合の税額の算定は、まず調整所得金額に対して所得税法第一三条の税率を適用してその税額を計算し、その税額とその税額の調整所得金額に対する割合を特別所得金額に乗じて算出した金額とを加算してなされる(同法第一四条第一項)。

(二)  譲渡所得金額の算定方法

昭和二七年中における譲渡所得(いわゆるみなし譲渡を含む)は資産の譲渡による総収入金額から当該資産の取得原価設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除し、更に一〇万円を控除して算定される(同法第九条第一項、第八号第二項)。

そして、当該譲渡資産が土地、家屋、株式等の資産であつて昭和二五年一月一日(資産再評価の基準日という)以前に所得せられていたものである場合には、資産再評価法によつて再評価が行われたものとみなされる(資産再評価法第八条第二項、第九条)。この結果、資産の譲渡がなされた場合には資産再評価法によつて、在来の取得原価が再評価され、この再評価後の金額が当該資産の取得原価となる。この場合において再評価の計算の基礎となる在来の取得原価については、当該資産が財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前に取得せられたものである場合には、この調査時期の評価額を基礎にして再評価法に定められた一定倍数を乗じて右再評価額を算定することとなつている(再評価法第二三条)。

(三)  原告等の確定申告

原告田中豊治郎、同たきは、被告上京税務署長に対し、昭和二八年四月一一日変動所得の平均課税を選択した昭和二七年分所得税修正確定申告書(末尾添付の別表第一参照)を各提出し、原告忠兵衛は、被告下京税務署長に対し、昭和二八年三月一六日、変動所得の平均課税を選択した昭和二七年分所得税確定申告書を提出し、その後昭和二八年六月二二日その修正確定申告書(前同別表第一参照)を提出した。

(四)  本件の各更正決定

そこで、被告等はそれぞれ原告等の譲渡所得金額について調査したところ、株式再評価額の計算に誤があつたので、被告上京税務署長は昭和二九年九月一六日原告田中豊治郎同たきに対し、被告下京税務署長は昭和三〇年六月三日、原告田中忠兵衛に対し前記別表第二に記載の金額とする各更正決定をした(乙第九号証乃至第一一号証)。

(五)  そこで原告等の各譲渡所得金額の算定をしてみるのに、

1  原告田中豊治郎の分について

同原告が昭和二七年二月一日に訴外田中晃一に贈与した京都晒染工業株式会社の株式は二万株で一株当りの価額は金四〇〇円であつた。

そして、その株式の取得時期による内訳は、

(イ) 財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前より所有していたもの一、二五〇株、

(ロ) 同社の再評価積立金の資本組入による昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの三、七五〇株、

(ハ) 訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配されたもの(昭和二四年一月一〇日)五、〇二二株

(ニ) 右の(ハ)の株式に対する(ロ)の無償交付によるもの一五、〇六六株、

右(イ)(ロ)の合計五、〇〇〇株と(ハ)(ニ)の合計二〇、〇八八株の内一五、〇〇〇株であつた。

ところで、右(イ)(ロ)の株式の財産税調査時期に於ける評価額は一株当り金一一六円であるか(ら甲第四号証)、その再評価額は次の算式によつて一株当り金二一四円六〇銭(円以下切上で二一五円)となる(資産再評価法第二三条第一項、第二二条第一項)。 116円×7.4÷4=214円60

また右(ハ)(ニ)の株式の財余財産分配時(昭和二四年一月一〇日)における価額は一株当り金一一六円である(乙第二号証)から、その再評価額はつぎの算式によつて一株当り金二九円となる(同法第二三条第一項、第二二条第一項)。

116円×1.0÷4=29円

従つて、これにより前記算定の方法に従つて、その譲渡所得額を算出すれば、その金額はつぎの算出によつて金六四九万円となる。(これより更に前記一〇万円の控除額を差引けば、その額は六三九万円である(別表第三参照)。

(400円×20,000)-(215円×5,000+29円×15,000)=6,490,000円

ところが、前記更正決定においては右(ハ)(ニ)の株式取得時期を訴外会社の解散時(昭和二二年一一月一一日)としその時の価額を一株当り金一一六円として譲渡所得額金六一三万円(前記一〇万円を控除すればその額は六〇三万円)を算定したのであつて、(別表第二参照)これは前記(ハ)(ニ)の株式の取得時期を誤つて算定したことにはなるが、正当に算出した原告の所得金額を下廻る金額を以つてしたのであるから、右更正決定には原告のためにこれを取消すべき瑕疵はないのである。

2  原告田中たきの分について

同原告が昭和二七年二月一日に訴外田中辰雄に対して一万株、訴外田中満子に対して五、〇〇〇株を各贈与した京都晒染工業株式会社の株式一株当りの価額は金四〇〇円であつた。

そしてこの株式の取得時期による内訳は

(イ) 訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配(昭和二四年一月一〇日)されたもの四、三二六株

(ロ) これに対し同社の再評価積立金の資本組入れによる昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの一二、九七八株

の合計一七、三〇四株の内一五、〇〇〇株であつた。ところで、この残余財産分配時(昭和二四年一月一〇日)に於ける右株式の価額は一株当り金一一六円である(乙第二号証)からその再評価額は次の算式によりて一株当り金二九円となる(資産再評価法第二三条第一項、第二二条第一項)。

116円×1.0÷4=29円

従つてこれより前記算定の方法に従つてその譲渡所得金額を算出すれば、その金額はつぎの算式によつて金五五六万五、〇〇〇円となる(これより更に前記一〇万円の控除額を差引けばその額は五四六万五、〇〇〇円である)(別表第三参照)。

(400円×15,000)-(29円×15,000)=5,565,000円

ところが、前記更正決定においては右株式の取得時期を訴外会社の解散時(昭和二二年一一月一一日)とし、その時の価額を一株当り金一一六円として譲渡所得額金五二〇万五、〇〇〇円(前記一〇万円を控除すればその額は五一〇万五、〇〇〇円)を算定しているのであつて(別表第二参照)、これは株式の取得時期を誤つて算出したことにはなるが、正当に算出された原告の所得金額を下廻る金額を以つてしたものであるから、右更正決定には、原告のためにこれを取消すべき瑕疵はないのである。

3  原告田中忠兵衛の分について

同原告が昭和二七年二月一日に訴外田中豊外二九名に贈与した京都晒染工業株式会社の株式は一九、六五〇株でその価額は金四〇〇円であつた。

そしてその株式の取得時期による内訳は

(イ) 財産税調査時期(昭和二一年三月三日)以前より所有していたもの一〇〇株

(ロ) 同社の再評価積立金の資本組入れによる昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの三〇〇株

(ハ) 訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配(昭和二四年一月一〇日)されたもの四、九四三株

(ニ) 右の(ハ)の株式に対する(ロ)の無償交付によるもの一四、八二九株

右(イ)(ロ)の合計四〇〇株と(ハ)(ニ)の合計一九、七七二株の内一九、二五〇株であつた。

ところで右(イ)(ロ)の株式の再評価額は前記田中豊治郎の分について記載したと同一の理由によつて一株当り金二一五円、また右(ハ)(ニ)の株式の再評価額は前記田中豊治郎と田中たきの分について記載したと同一の理由によつて一株当り金二九円である。 従つて、これより前記算定の方法に従つてその譲渡所得額を算出すれば、その金額はつぎの算式によつて金七二一万五、七五〇円となる(これより更に前記一〇万円の控除額と差引けばその額は七一一万五、七五〇円である)(別表第三参照)。

(400円×19,650)-(215円×400+29円×19,250)=7,215,750円

ところが、前記更正決定においては、右(ハ)(ニ)の株式取得時期を訴外会社の解散時(昭和二二年一一月一一日)とし、その時の価額を一株当り金一一六円として譲渡所得額金六七五万三、七〇〇円(前記一〇万円を控除すれば、その額は六六五万三、七〇〇円)を算定しているのであつて(別表第二参照)、これは右(ハ)(ニ)の株式取得時期を誤つて算出したことにはなるが、正当に算出した原告の所得金額を下廻る金額を以つてしたものであるから右更正決定には、原告のためにこれを取消すべき瑕疵はないのである。

四、従つて、原告等の予備的請求も理由がない。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、主たる請求について、

(一)  本案前の抗弁について、

被告等は、原告等が本訴で取消を求める行政処分は存在しないから、かゝる訴は不適法である、と主張し、成程抗告訴訟に於て、取消変更を求める対象たる行政処分の存することは、この種の訴の要件をなすものであることは勿論であるが、それは専ら原告の主張自体によつて決すべきものであつて、その処分の客観的の存否は本案に於て判断すべきものである。ところで本件にあつては、原告等は、被告等が原告等の取消を求める課税処分をしたと言うのであるから、本件訴は適法であり、これを不適法として却下を求める被告等の主張は理由がない。

(二)  本案について、

原告等は、被告上京税務署長は昭和二八年七月二九日付再評価額等の更正決定通知書を以つて、原告田中豊次郎、同たきに対し、被告下京税務署長は、昭和二八年六月三〇日付再評価額等の更正決定通知書を以つて、原告田中忠兵衛に対し、夫々課税処分としての昭和二七年度の譲渡所得額の決定をした、と主張するが、被告等が、右の日時原告等主張の課税処分をしたことは、これを認めうる証拠がない。もつとも、成立に争のない甲第一号証ないし第三号証の各一によると、原告等に送達された被告等が原告等に対してなした各資産再評価税更正決定通知書に再評価額、再評価差額、再評価税額の各更正額並に右更正による各増減額を同通知書用紙の各当該欄に、特に右各増減額は朱書をもつて明示したのと区別し、いわば備考欄ともいうべきその表面右下部の何等の項目を掲げず、単に空欄とせられている部分にそれぞれ昭和二七年度の譲渡所得額の申告額と更正額を並べて記入(被告下京税務署長は右更正額のみ)されている事実が認められるが、納税義務者たる国民の譲渡所得額は本来所得税賦課手続において確定されるべきものであつて、再評価税賦課手続において確定されるべきものではないのである。すなわち、再評価税賦課手続においては、個人の減価償却資産以外の資産の再評価の申告又はその修正申告に関する法第四七条第一項、第四八条第三項により、再評価額、再評価差額、再評価税額(当該資産が二以上ある場合においては、これらの合計額)並びに大蔵省令で定める事項を記載した申告書、又は申告書記載事項等のうち修正すべき事項及び大蔵省令で定める事項を記載した修正申告書を提出すべきものとされているが、資産の再評価の結果算出し得る譲渡所得額については右申告書又は修正申告書に記載することを必要としているものではなく、又従つて右申告にかかる再評価額等の更正に関する法第六五条も申告された右再評価額、再評価差額若しくは再評価税額若しくはこれらの合計額又は免除される再評価税額を更正の対象と定め、もとより右譲渡所得額を更正すべきものとはなしていないのである。換言すると、現行税制上資産再評価税賦課手続に於ては課税処分としての所得額の決定をなしえない仕組となつているのである。

それ故に本件の如くたとえ原告等において再評価の結果算出し得る昭和二七年度譲渡所得額を附記した再評価の申告書又はその修正申告書を提出して再評価申告をしたのに対し、被告等が当該原告に対する各再評価税更正決定通知書において、右譲渡所得額の更正額を掲げていたところで、それは、その記載の形式に徴するも明らかなとおり、前記認定のように、いわば備考欄ともいうべき末尾空白欄を利用してそれぞれ昭和二七年分の当該原告等の譲渡所得額に関する記載をなしたにとどまるものであつて、右譲渡所得額の記載は単に被告等が当該原告の昭和二七年度所得税賦課手続において認定すべき同年度譲渡所得額を予め示したものと解すべきであつて到底右各再評価税更正決定において右譲渡所得額を更正するの処分をしたものということはできない。

従つて、原告等の主たる請求は、その取消の対象たる被告等の行政処分が存しないものであるから、理由がないものとして棄却するの他はない。

二、予備的請求について、

(一)  本案前の抗弁について、

(1)  被告上京税務署長が、原告豊治郎に対し昭和二七年度所得税更正決定をなし、その同年度総所得金額を七、五九八、一五六円、うち譲渡所得を六、一三〇、〇〇〇円と決定し、原告たきに対し、同年度所得税更正決定をなしその同年度総所得金額を五、一二五、四四八円、うち譲渡所得を五、二〇五、〇〇〇円(総額たる右総所得金額がその一部たる譲渡所得の額より少い理由は、同原告は右譲渡所得の他に配当所得二〇、四四八円があり、右総所得金額は右両所得額の合計より所得税法第九条所定の一〇〇、〇〇〇円を控除して得られるものだからである)と決定し、右各決定が右各原告に対しそれぞれ昭和二九年九月一七日通知されたこと、被告下京税務署長が原告忠兵衛に対し、昭和二七年度所得税更正決定をなし、その同年度総所得金額を七、一四三、〇〇〇円、うち譲渡所得を六、七五三、七五〇円と決定し、右決定が同原告に対し、昭和三〇年六月六日通知せられたこと、原告豊治郎及び同たきが被告上京税務署長に対し当該各所得税更正決定に関する再調査請求をなしたところ、同被告は昭和二九年一二月二二日これを棄却する旨の決定をなしたが、右原告等はこれにつき大阪国税局長に対する審査請求をなさなかつたこと、原告忠兵衛は被告下京税務署長に対し、当該所得税更正決定に関する再調査の請求をなしたところ所謂みなす審査に移行し大阪国税局長は昭和三一年三月二九日これを棄却する旨の決定をなしその頃これを同原告に通知したこと、は当事者間に争がなく、原告等が当初昭和三〇年七月一日に本訴を提起し、その請求の趣旨として「(一)被告上京税務署長が原告豊治郎に対し昭和二八年七月二九日付を以てなした更正決定中(1)再評価合計額金一、八七〇、〇〇〇円を金四、三〇〇、〇〇〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金一、一九〇、〇〇〇円を二、二七〇、〇〇〇円に変更する(3)再評価税額金七一、四〇〇円を金一三六、二〇〇円に変更する(4)譲渡所得金額金六、一三〇、〇〇〇円を金三、六〇〇、〇〇〇円に変更する。(二)被告上京税務署長が原告たきに対して昭和二八年七月二九日付を以てなした更正決定中(1)再評価合計額金七九五、〇〇〇円を金三、二二五、〇〇〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金二六〇、〇〇〇円を金一、三四〇、〇〇〇円に変更する(3)再評価税額の合計額金一五、六〇〇円を金八〇、四〇〇円に変更する(4)譲渡所得金額金五、二〇五、〇〇〇円を金二、七七五、〇〇〇円に変更する。(三)被告下京税務署長が昭和二八年六月三〇日付を以て原告忠兵衛になした更正決定中(1)再評価額合計額金一、〇〇六、二五〇円を金四、二二四、七五〇円に変更する(2)再評価差額の合計額金四三六、四〇〇円を金一、八二二、四〇〇円に変更する(3)再評価税額の合計額金二六、一八〇円を金一〇九、三四〇円に変更する(4)譲渡所得金額金六、七五三、七五〇円を金三、五三五、二五〇円に変更する」等の記載を掲げたこと、は当裁判所に明かなところであり、右記載どおりの日時に各原告等に通知せられた資産再評価法に基づく各更正決定に対しては、原告豊治郎同たきにおいて昭和二八年八月六日、原告忠兵衛において同年七月一七日それぞれ法定期間内に大阪国税局長に対し審査の請求をなし、これらはいずれも昭和三〇年四月四日棄却せられるに至つたものであること、は当事者間に争がない。そして原告等が昭和三二年一二月一七日の本件準備手続期日に前記当初の請求の趣旨中(一)ないし(三)の各(1)ないし(3)に関する部分を変更し、同時に同年九月一七日付で当裁判所に受理せられた「請求の趣旨変更及び準備書面」と題し、右当初の請求の趣旨中(一)ないし(三)の各(4)に関する部分の記載を本判決事実欄冒頭に掲記のそれと同様な趣意の記載にあらためる旨の内容の書面に基づいて陳述したこと更に本件口頭弁論の末期に到つて、請求を、本判決事実摘示の冒頭記載のように、主たる請求と従たる請求に整理したこと、は当裁判所に顕著である。

(2)  以上の弁論の経過と、事実関係に本件訴状請求の原因の記載を考えあわせると、原告等の前記当初の請求の趣旨はいずれも右資産再評価法に基づく更正決定の内容をなす被告等の認定をとらえ、これが変更を求めるものであつたところ、その後右昭和三二年九月一七日付書面によつて、これと同じ年度の所得税更正決定中の譲渡所得額に関する認定をとらえこれが変更を求めるものに変更したものというべく、右訴の変更は後記(3)に説示する如き資産再評価法に基づく更正決定と所得税更正決定中譲渡所得に関する部分との事実上及び法律上の密接な関係に照し請求の基礎に変更なきものと解せられるし且右訴の変更によつて著しく訴訟手続を遅延せしめるものでもないからもとより許容せられるべきであるところ、前記(1)に認定の事実により、右資産再評価法に基づく更正決定についてはいずれも行政救済手続の履践及び出訴期間の遵守が適法になされたものというべきであるが、訴変更後の請求の対象たる所得税更正決定については、原告豊治郎及び原告たきにおいて大阪国税局長に対する審査請求の手続を欠き、原告忠兵衛において出訴期間の遵守に欠けることとなる。

(3)  ところで原告等は、資産再評価法に基づく更正決定についてなされた行政救済手続の履践がありさえすれば同じ年度の所得税更正決定についてあらためてこれを必要としないと主張するが、右主張は結局所得税法第五一条第一項但書末段の正当事由の主張と解せられるところ、原告忠兵衛については(1)に説示したとおり所得税更正決定についての行政救済手続を履践しているのであるから爾余の原告等につき果してかかる正当事由が肯認し得るや否やにつき考えてみる。

元来、資産再評価法の所謂みなす再評価制度の趣旨は、戦後貨幣価値の日につぐ下落に伴い資産の名目上の価額が甚だしい騰貴をつづけ、そのために、特定時点におけるその譲渡等の場合に同時点における右名目上の価額からそれ以前の取得時期における低額な取得価額を控除した数額を基礎とし、これに戦後の高率の所得税を賦課するのは著しく不合理だ、として「資産譲渡等の場合における課税上の特例を設けてその負担を適正にし、もつて経済の正常な運営に寄与することを目的」とするにある(同法第一条後段)。ところで同法は一般的には資産の再評価をなすと否とを任意的なものとし、これを強制していないのである(同法第六条第一項、第八条第一項)が、前記のように資産の譲渡等が行われた場合には原則として必然的に所得税法上譲渡所得の発生という形で課税問題が生じて来るため、この場合には当然に資産の再評価が行われたものとみなし(同法第六条第二項、第八条第二項)てその申告を要求し、それに不当ないし過誤の点の存するときには更正決定がなされ、このようにして決定せられた再評価額をその資産の当時の評価から控除した金額が結局所得税法上同税の課税対象たる課税所得金額の組成要素になることとしている。これを本件の資産が株式である場合についてみるに、法は原則としてその取得時期に応じた再評価倍数を法定して右再評価額を算出する基礎となし(同法第二三条第一項、第二二条第一項、同法別表第四参照)、これによつて算出せられる再評価額から、その株式の取得時期に応じあるいは、その財産税評価額を、あるいは法定計算方法により算出される取得価額を、控除し(同法第四三条)て得た再評価差額に対し百分の六という極めて低率ではあるが、そういう一率の再評価税が課せられることとなつている(同法第四四条)。所得税の税率が最低の場合でも百分の二十、最高の場合は百分の五十五で、累進的に定められていること(所得税法第一三条)に対比すれば右再評価税率の低さが明瞭となる。ところがかかる両税率の差から次のような事態が起り得る。すなわち、再評価額の認定が低額となると、再評価差額も低額となり従つてこれを対象として課せられる再評価税そのものとしては少額となるが、反面において、譲渡所得額が高額に認定される結果となり、そして高率累進的な所得税額の決定が多額となつて結局全体としての税負担が嵩むという現象である。しかも再評価額の認定を更正決定より多額にせよということは行政救済手続上は可能である(同法第七二条)けれども右が棄却という審査決定で終つた場合に果して訴をもつてその救済を求め得るか否かは疑問である。結局司法上の救済を求めるには所得税の賦課処分をまちこれをとらえて出訴するしか致し方がないと解すべきであろう。

ところで、そのように解した場合、右に述べたような資産再評価法上の行政救済手続を経由している場合にもなお、さらに所得税法上の行政救済手続(同第四八条以下)を履践しなければ訴願前置の要請をみたさないものというべきであろうか。もとより所得税賦課処分のうち資産再評価法上の問題となつた譲渡所得以外の所得について司法救済を求めるのならば自ら別論であるけれども、すでに資産再評価法上の問題となつた譲渡所得の部分のみについて出訴する場合は、同法上の行政救済手続(税務署長のなした処分については国税局長に対する審査請求という一段階のみ)を履践しておりさえすれば、あらためて所得税法上の右手続(税務署長のなした処分につき同署長に対する再調査請求と国税局長に対する審査請求との二段階)を履践するまでもなく、訴願前置という法制度の以て目的とするところを十分に満たすものというべきである。けだし資産再評価額の決定によつて、自ら譲渡所得額がきまる関係にあり、これらは共に同一の行政庁によつて決せられるものだからである。本件はまさしく右にあげた事例の場合に該当するのであつて、原告豊治郎及び同たきが被告上京税務署長のなした本件所得税更正決定につき再調査の請求をなしただけで審査請求をしなかつたこと、すなわち所得税法の要求する行政救済手続を完全に履践しなかつたことは、同法第五一条第一項但書末段の正当事由ある場合に該当するといわなければならない。

(4)  そこで次に出訴期間の点について判断する。

前記(1)に説示したとおり本件各所得税更正決定は原告豊治郎及び同たきに対し、それぞれ昭和二九年九月一七日に通知せられており、原告忠兵衛の「みなす審査」についての大阪国税局長の棄却決定は同原告に対し昭和三一年三月二九日に通知せられているのであるから、前記訴の変更により新訴が提起されたのと同視すべき昭和三二年九月一七日は、所得税法上の出訴期間たる右通知の日以降三ケ月を経過した後ではあるが、原告等が本訴において当初から一貫して主張しているところは、要するに、原告等の昭和二七年度の譲渡所得額について被告等のなした処分を不服としてその一部取消変更を求めるものであり、前に説示した通り原告等は当初の請求で、再評価税更正決定における譲渡所得額の更正処分の一部取消変更を求めたのを、後に所得税更正決定における譲渡所得額の更正処分の一部取消を求める趣旨に変更したが、これは実質的には原告等の昭和二七年度の譲渡所得額に対する被告等の更正処分の一部取消を求めることを目的とする前後同一の事件であるから最初に提起された訴について出訴期間が遵守されている以上、変更後の訴についての出訴期間経過後に訴の変更がなされても、依然出訴期間は遵守されているものと解すべきである。

しかして、資産再評価法に基づく各更正決定に対しては、原告豊治郎及び同たきにおいて昭和二八年八月六日、原告忠兵衛において同年七月一七日、それぞれ法定期間内に大阪国税局長に対し審査の請求をなし、これらはいずれも昭和三〇年四月四日棄却せられるに至つたものであることは前説示の通りであつて、右棄却決定のあつた日より三ケ月以内である昭和三〇年七月一日に原告等が本訴を提起したことは当裁判所に顕著なところであるから、原告等の本件所得税更正決定における譲渡所得額の一部取消を求める訴は結局出訴期間を遵守して提起されたものということができる。

従つて、この点についての被告等の主張は理由がなく、原告等の予備的請求は適法である。

(二)  本案について、

(1)  先ず被告上京税務署長が原告田中豊治郎同田中たきに対して、昭和二九年九月一七日に、同原告等の昭和二七年分の各所得税更正決定をし、被告下京税務署長が原告田中忠兵衛に対して昭和三〇年六月六日、同原告の昭和二七年分所得税更正決定をし、それぞれ告知されたこと、その更正決定の内容が夫々原告等主張の通りであること、はいずれも当事者間に争がない。

(2)  ところで昭和二七年分の所得税の算出方法についての税法の規定によると、同年中の総所得金額のうち、譲渡所得、一時所得等のいわゆる変動所得が総所得金額の二割以上を占める場合には、納税義務者の選択によつて平均課税の方法を選ぶことができる(所得税法第一四条、第二六条)。この平均課税の選択がなされた場合の課税は、同年中の総所得金額から扶養控除、基礎控除等を控除しないで、これ等の控除をまず変動所得以外の所得(普通所得という)金額についてなし、なお不足額があるときはこれを変動所得の金額から控除し、その残額の普通所得に変動所得金額の五分の一を加えた額(調整所得金額という)と変動所得金額の五分の四に相当する額(特別所得金額という)とをその基礎としてなされる(同法第一四条第一項)。この場合の税額の算定は、まず調整所得金額に対して所得税法第一三条の税率を適用してその税額を計算し、その税額とその税額の調整所得金額に対する割合を特別所得金額に乗じて算定した金額とを加算してなされる(同法第一四条第一項)。なお、譲渡所得(いわゆるみなし譲渡を含む)については、資産の譲渡による総収入金額から当該資産の取得原価、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除し、更に、一〇万円を控除して算定される(同法第九条第一項、第八条第二項)。そして、当該譲渡資産が土地、家屋、株式等の資産であつて、昭和二五年一月一日(資産再評価の基準日という)以前から所有せられていたものである場合には、資産再評価法によつて再評価が行われたものとみなされる(資産再評価法第八条第二項、第九条)。この結果、資産の譲渡がなされた場合には、資産再評価法によつて在来の取得原価が再評価され、この再評価された後の金額が当該資産の取得原価となる。

この場合において再評価の計算の基礎となる在来の取得原価については、当該資産が財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前に取得せられたものである場合には、この調査時期の評価額を基礎にして再評価法に定められた一定倍数を乗じて右再評価額を算定することとなつている(再評価法第二三条)。

(3)  しかして、原告田中豊治郎、同たきは、被告上京税務署長に対し、昭和二八年四月一一日変動所得の平均課税を選択した昭和二七年分所得税修正確定申告書(別表参照)を各提出し、原告田中忠兵衛は、被告下京税務署長に対し、昭和二八年三月一六日、変動所得の平均課税を選択した昭和二七年分所得税確定申告書を提出し、その後昭和二八年六月二二日その修正確定申告書(別表参照)を提出したことは原告等に於て明らかに争わないところであり、本件の各更正決定の対象となつた原告等の各譲渡所得を生じた、株式の譲渡の内訳が

<1> 原告田中豊治郎については、昭和二七年二月一日に訴外田中晃一に贈与した京都晒染工業株式会社の株式は二〇、〇〇〇株でその一株当りの譲渡価額は金四〇〇円であり、その株式の取得時期による内訳は、(イ)財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前より所有していたもの一、二五〇株、(ロ)同社の再評価積立金の資本組入れによる昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの三、七五〇株、(ハ)訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配されたもの五、〇二二株、(ニ)右の(ハ)の株式に対する(ロ)と同様の無償交付によるもの一五、〇六六株で、右、(イ)(ロ)の合計五、〇〇〇株と(ハ)(ニ)の合計二〇、〇八八株の内一五、〇〇〇株であつたこと、

<2> 原告田中たきについては、昭和二七年二月一日に、訴外田中辰雄に対して一〇、〇〇〇株、訴外田中満子に対して五、〇〇〇株を各贈与した京都晒染工業株式会社の株式一株当りの譲渡価額は金四〇〇円であり、その株式の取得時期による内訳は、(イ)訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配されたもの四、三二六株、(ロ)これに対し、同社の再評価積立金の資本組入れによる昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの一二、九七八株の合計一七、三〇四株の内一五、〇〇〇株であつたこと、

<3> 原告田中忠兵衛については、昭和二七年二月一日に訴外田中正豊外二九名(但し原告忠兵衛は訴外田中正豊外二八名と主張)に贈与した京都晒染工業株式会社の株式は一九、六五〇株でその譲渡価額は金四〇〇円であり、その株式の取得時期による内訳は、(イ)財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前より所有していたもの一〇〇株、(ロ)同社の再評価積立金の資本組入れによる昭和二六年一二月二五日の無償交付によるもの三〇〇株、(ハ)訴外田中忠合資会社の解散により同社の残余財産として分配されたもの四、九四三株、(ニ)右の(ハ)の株式に対する(ロ)と同様の無償交付によるもの一四、八二九株における(イ)(ロ)の合計四〇〇株と(ハ)(ニ)の合計一九、七七二株のうち一九、二五〇株であつたこと、は、いずれも当事者間に争がない。

ところで原告田中豊治郎、同田中忠兵衛の右各(イ)(ロ)の株式の財産税調査時期における評価額は成立に争のない甲第四号証によれば、一株当り金一一六円であることが認められるから、その再評価額は資産再評価法第二三条第一項の算式によつて一株当り金二一四円六〇銭(円以下切上げで二一五円)となることが判る。(116円×7.4÷4=214円60銭)

そして原告田中豊治郎、同田中忠兵衛は右各(イ)(ロ)の株式については財産税調査時期における評価額が一株当り金一一六円であつて、その再評価額が一株当り金二一五円であるとして右金額を基礎として前記算定の方法に従つて同原告等の昭和二七年分の譲渡所得額を算出して前認定の同年分の修正確定申告書を提出したことは被告等に於て明かに争わないところであり、被告等に於ても右各(イ)(ロ)の株式については右算出方法をとるべきものとしている。

そうすると結局前認定の更正決定により更正された部分は原告田中豊治郎同田中忠兵衛については前記(ハ)(ニ)の各株式、原告田中たきについては前記(イ)(ロ)の各株式の各譲渡所得額についてであるということになる。

(4)  よつて以下右株式についての各譲渡所得額を判断する。

(イ) 右各株式は訴外田中忠合資会社の解散による同会社の所有していたものを夫々原告等が残余財産の分配として取得したもの、及びそれを親株として無償交付を受けたものであるから、先ず右株式の取得価格の算定の基礎となる原告等の取得時期を検討しよう。

右訴外会社が昭和二二年一一月一一日解散し清算手続に這入つたことは当事者間に争がないが、成立に争のない乙第二号証の一ないし四、証人小橋茂一の証言を総合して判断すると、右訴外会社は原告等一族の所謂同族会社で且訴外京都晒染工業株式会社の株式の所謂持株会社であつて、従つて営業をしていたわけではないから、清算事務と言つても、唯持株、その他現金不動産等の分配のみでその分配方法も解散当時決定していたことが認められるが、実際に株式の分配手続が完了したのは昭和二四年一月一〇日であつたものと認められ、右訴外会社清算人に於ても、右日時を残余財産分配時として被告下京税務署長に対して清算所得の申告していることが認められる。原告等は解散日に即日分配を受けたと主張するが、いかに訴外田中忠合資会社が右認定のような会社としても、解散時に即時分配手続がなされたとすることは事実に即しない主張である。

(ロ) そこで次に、右分配当時の株式の価格について検討する。前記各証拠によると、右訴外京都晒染工業株式会社の株式には当時市場価格がなかつたし、また分配時殊更な評価を行わず、唯訴外解散会社に於て財産税法による評価額一株一一六円を以て計算したものを会社資産として計上して前認定の申告をしていることが明かである。しかし証人佐藤正美、同中田寿の各証言によると、被告下京税務署に於て右残余財産分配当時訴外京都晒染工業株式会社につき、純資産を株式数で除して計算したところによると、同会社の一株当りの価格が九〇円九六銭となることが認められるから、一株一一六円と言うのは実際の株価を上廻る金額と言わねばならない。

従つて原告等が右株式を取得した当時の右株価は円以下を四捨五入すれば九一円が相当と言うことになる。

ところで同一会社の株式の価格を前認定のように一株一一六円と認定し、今ここで九一円と認定することは、不合理ではないかの疑いがないでもないが、株式の評価である以上評価の時期を異にすれば自ら金額に差異を生ずることは止むをえないところである。

原告等は右株式についても資産再評価法に基く再評価方法を用い、これを逆算して右株式の取得価格を算定するのが妥当であると主張するが、同法に規定する再評価は納税者の負担の適正を期するための特例であつて、その規定する再評価の方法は性質上劃一的にならざるをえないし、また勢い再評価された価額も想像的ないし仮装的なものとならざるをえないのであつて、かゝる法律の規定による評価方法をみだりに取得価格の算定のような他の場合に応用すべきではなく、殊に同法には原告の主張するような逆算方法の規定もないのであるから、原告等の右主張は採用することができない。

(ハ) 右認定の取得価格を基礎として、その再評価額を算定すると、原告田中豊治郎、同田中忠兵衛の前記各(ハ)(ニ)及び原告田中たきの(イ)(ロ)の株式一株の取得価格は二三円(円以下四捨五入)となる。(再評価法による再評価の倍率は取得時期が昭和二四年一月一〇日であるから、同法付属別表第六により、一、〇であるから、91円×1.0÷4=22円75銭)

従つてその譲渡所得額は、一株につき三七七円となるから、原告田中豊治郎同たきについては、夫々五、六五五、〇〇〇円となり、(377円×15,000=5,655,000円)

原告田中忠兵衛については、七、二五七、二五〇円となる、(377円×19,250=7,257,250円)

(5)  そこで原告等の昭和二七年度の課税譲渡所得金額を計算すると、

1、原告田中豊治郎については、

同原告の前記(イ)、(ロ)の株式の合計が五、〇〇〇株で、その取得価格が一株二一五円、譲渡価格が一株四〇〇円であるから、譲渡所得は合計九二五、〇〇〇円となり、これに前記(ハ)、(ニ)の株式の分五、六五五、〇〇〇円を加えると、総計六、五八〇、〇〇〇円となり、これより一〇〇、〇〇〇円を控除した六、四八〇、〇〇〇円となる。

2、原告田中たきについては、前記五、六五五、〇〇〇円から一〇〇、〇〇〇円を控除した五、五五五、〇〇〇円となる。

3、原告田中忠兵衛については、

同原告の前記(イ)、(ロ)の株式の合計が四〇〇株であるから、前同様の計算によると、この分の譲渡所得は七四、〇〇〇円となり、これに前記(ハ)、(ニ)の株式の分七、二五七、二五〇円を加え、一〇、〇〇〇円を控除して七、二三一、二五〇円となる。

(6)  以上認定の各課税金額がいずれも前認定の更正決定による各原告に対する課税譲渡所得金額を超えるものであるから、結局被告等のした各更正決定は原告等の真実の譲渡所得額以下の金額を以つて課税価額としたものであつて、この点に於て違法ではあるが、原告等に対してはむしろ真実より過少な決定であるから、原告等のためにこれを取消すべき理由はない。

(7)  右理由によつて、右更正決定の取消を求める原告等の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 喜多勝 芦沢正則 大西リヨ子)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例